カストリ書房が選ぶ2018年の遊廓本５タイトル

吉原遊廓開基400年、売春防止法施行60年と、遊廓・赤線にとって節目の年にあたった2018年ですが、読み忘れはありませんか？　今回は、今年発行された書籍を中心に、読み逃し厳禁オススメの書籍をセレクトしてみました。

石内都『互楽荘』

1970年代の終わり、全国の遊廓・赤線跡を撮影、『連夜の街』を発表した写真家、石内都氏による写真集。敗戦からわずか３日後、内務省警保局から各県の警察本部長宛に、進駐軍向けの施設を準備するよう発せられ、急ピッチで準備が進んだ性的慰安施設。第一号は8/28、焼け残った大森の小町園を転用し、進駐軍向けの娼家として開業。その2日後、横浜で開業したのが、本書に収録されている互楽荘。様々な混乱から1週間だけ利用された幻の娼家「互楽荘」を、取り壊し直前の1986年、奇跡的に撮影された貴重な写真集。
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三橋順子『新宿「性なる街」の歴史地理』

現在、商業出版界において、近現代の色街、なかでも赤線をテーマに最も精力的に執筆活動している人物と誰かと問われれば、三橋順子氏と答える。用いた資料は膨大なだけではなく、選球眼の良さが伝わる質の高い資料を典拠としている。新宿や亀戸の赤線の成り立ちや、そもそも赤線とは何か？という疑問に対して、正確に、かつ平易な表現を用い、説明している。加藤政洋『敗戦と赤線』から知識をアップデートしていない人には、必読の書。
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子門仁『ぽつん風俗に行ってきた！』

次は、少し柔らかい書を。関東近郊の店舗型風俗店、それも風俗街を為さず、単店で「ぽつん」と営業してる風俗店のレポート。中身は純粋な風俗体験記なので、苦手な人には受けられないかもしれないが、そもそもなぜ単体でぽつんと佇む風俗店が、こうして取り上げられるようになったのか？　その背景を知ることで、見える景色も変わってくる。レジャー関係の統計によれば、性産業の売上全体のうち、半分以上がデリバリーヘルスとなっている現状がある。ソープのようにビル一棟を抱えて、高い固定費を払いながら営業するよりも、電話番と女の子が待機するそれぞれ一室を用意し、ラブホテルを営業ルームとする方が、効率性が高いということだろう。近年のこの傾向は、遊廓・赤線ファンを自称する人にとって看過できないものだ。「色街」とは、街単位で、性産業を中心に成り立っている場所を指す言葉だが、デリヘル等、無店舗型の性風俗、あるいは個人売春が増え続ける今の延長線上には、今後の色街は地図に残らず、そもそも色街を形成しない未来を示唆している。
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八木澤高明『江戸・東京色街入門』

横浜の売春街、黄金町に肉薄取材した『黄金町マリア』の著者で知られる八木澤氏の新刊。新書サイズにコンパクトに纏められた本書は、色街散歩に持ち出せる。公許の遊廓から私娼窟の青線地帯まで。近現代の都内色街を知りたい人向き。
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安藤優一郎監修『江戸を賑わした色街文化と遊女の歴史』

版元のカンゼン社からは『江戸の色町　遊女と吉原の歴史』も発行されているが、本書は同時代の、吉原以外の色街も含み、間口を広めに取った作品。江戸の色町といえば、宿場町（千住、板橋、新宿、品川、府中、八王子）の飯盛女と、寺社仏閣の門前町の茶汲み女などが有名だが、こちらも紹介している。江戸は色街だらけだった…。『江戸の色町〜』と読み比べても面白い。
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渡辺豪編『赤線の灯は消えても…』

レジャー誌『内外タイムズ』が伝えた赤線の盛衰。赤線全盛期とされる昭和28年における都内赤線の詳細な紹介、売春防止法の成立濃厚となった赤線の様子、また売防法施行後の各業者や女の身の振り方を伝える記事など。当時の紙面から忠実に再録し、単行本にはない生々しい情報を拾い上げている。売防法の前中後、時系列から赤線を知る第一級の資料。
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渡辺豪編『渡辺寛　赤線全集』

最後に、2018年刊行ではないけれど、版元のカストリ出版では在庫僅少なので、読み逃し・買い逃しの無いよう、敢えてお伝えする一冊。昭和31年に発行された『全国女性街ガイド』は、売防法施行直前の全国各地に遍在した赤線をルポした奇書として、カルト的人気を誇り、現在でも古書相場では３万円前後で取引されているが、その著者、渡辺寛氏は約60年もの間、謎の著者として明らかにされてこなかったが、本書を編集した渡辺豪がご家族を探し出し、インタビューを実現させた渾身の一冊。単行本化されてこなかった一連の赤線作品を一挙に集成、『赤線跡を歩く』の関係者が一堂に会した座談会など、赤線ファンなら絶対に持っておきたい。
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